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決裂した米朝首脳会談にも成果ありー北が誠意ある非核化に取り組むしか道はないということが見えた Failure of Trump-Kim is a Great Lesson for Peace
2019-03-03-Sun  CATEGORY: 政治・外交
ハノイでのトランプ・金会談が事実上の決裂となった原因が、だんだん見えてくるにつれ、いずれもが敗者となった様子が明らかになるとともに、それが双方の準備不足や誤算によるものである可能性が濃厚になっている。

準備不足と言うのは、トップ外交による突破力を過信したためにトランプ、金の両首脳とも双方の事務方を中心とした事前調整が不十分なままであるにも関わらず、一定の合意が可能であると思い込んでしまったことである。これには双方の官僚たちの責任が重い。

北側は、寧辺の核施設の放棄と検証だけで制裁の基幹部分を解除できると思い込んでいた。コーエンの米議会証言で窮地に立つトランプが外交の成果を求めて妥協してくれるとの確信があればこそ、ハノイ会談を国民に予告し、成果が得られることを大々的にPRしていた。

米側は、北のそうした対応ぶりを百も承知でいたにもかかわらず、それに同意するための条件(たとえば制裁の基幹部分を一部だけ解除することでとりあえず非核化のプロセス入りを承認し、次の段階の非核化を求めるという段階戦略を採るとか)について政権内で対応を詰め切れていなかった。おそらく政権内の意見対立(前のめりのトランプと妥協に否定的なボルトン、慎重なポンペオ)が克服できていなかったのであろう。意地悪く見ればボルトンら強硬派の勝利だったともいえようか。

米側は合意文書を用意するまではできたが、「寧辺+α」のαについてのやりとりで北が寧辺以外の秘密施設の存在を認めることすらできず、その指摘に態度を硬化させる可能性について十分な準備ができていなかった。その結果、トランプと周囲の意見の隔たりを埋めることができず、トランプが妥協で押し切るだけの確信を抱くに至らず、ポンペオら周囲の説得を受け入れて慎重姿勢に転じたということだったのであろう。

これは、慎重派からみれば成功であり、トランプにとっても不首尾で不満はあるが、コーエン元弁護人の議会証言で自身のロシア疑惑に火がついた段階で北との交渉進展はたいした得点にはならないと読んで、中断やむなしの判断に至ったということなのだろう。

一方、北側にとっては、不首尾ではすまない。国民に経済好転の期待を持たせて大々的なプロパガンダを展開したにもかかわらず、何の成果も得られない結果では権威失墜は避けようがない。北のメディアがいくら交渉進展などと取り繕っても、だれも信じてくれるはずがない。

怒り心頭の金委員長が、怒りにまかせて周囲を粛清するかもしれないが、それをしたところでむしろ傷を深くする。周囲はなんとか次のチャンスをと必死でなだめようとするに違いない。北側は、ボールがあたかも米側にあるかのように錯覚し、そう宣伝するしかない苦しい立場だが、暗礁に乗り挙げた交渉を再開するには、少なくとも北側の「サラミ戦術」と呼ばれるような小出しで消極的な手法を転換し、非核化への誠意ある対応へと本気で舵を切るしかない。

米側が指摘する秘密の核施設の存在を認めることが第一歩であり、寧辺に続いてその秘密施設も段階的に破壊し査察を認めること、さらに現在保有している核兵器の全廃についても工程表を示すことが重要な前提となろう。そうすることなしには、経済制裁の解除はできないのだということを米国だけでなく中国やロシアも一緒になって北に働きかけをしなくてはならない。

今回の出来事で、北がいかに経済制裁に苦しみ、その解除に向けて必至であるかがよくわかった。そのために何をなすべきか、北の政権の指導者たちが真剣に考えるべき条件が見えてきたことは、この交渉決裂の意義深い成果であるともいえよう。この事態を危機再突入への失敗劇にするのではなく、「失敗は成功のもと」として危機克服への足掛かりにできるか、が問われている。




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